研究概要 |
主節平叙文おいては,文体的倒置を適用された主語は焦点である.これに対して,フランス語の関係節における倒置主語も焦点であると考えることによって一見多くの事実が説明できるように見える、しかしながら,以下の論拠により,関係節における倒置主語は,焦点でないと結論付けられる.1)焦点は断定領域に現れるはずだが,制限的関係節は概ね前提領域であるので,一般的には焦点が現れるとは考えられない、2)関係節における倒置主語は,主節平叙文における倒置主語と異なり,前方照応的に解釈できる.3)関係節においては,特に短い主語を観察すると,固有名詞や人間を指す単数の名詞句といった主題性の高い主語が倒置する率が高い.4)主節平叙文では焦点である倒置主語の後に他の要素は現れにくいが,関係節においては倒置主語の後に容易に他の要素が現れる. さて,関係節においては,individuationの高い主語の方が,そうでない主語より倒置しやすいと言える、ところが,individuationの高い名詞句は,その指示対象が認知的に際立っており,他の指示対象を確定するためのいわば参照点として機能しやすい.このことから,次の結論に至った.制限的関係節においては,主語名詞句が先行詞の指示対象の確定に寄与している程度が動詞よりも高く,動詞の方は主語の先行詞に対する関係を表しているにすぎない場合に,文体的倒置が適用される. フランス語の関係節における文体的倒置に対するこの制約は,名詞句内の要素を名詞句全体の指示対象の確定に対する寄与が小さいものから大きいものへと配列しようとする通言語的な傾向の現れであると考えられる、この傾向は,以下の現象において観察される.a)多くの言語で不定代名詞を形容詞で修飾する場合に,形容詞が不定代名詞に後置される.b)ロマンス語において,指示対象の外延を狭めない形容詞は名詞に前置される.
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