平成12年度の研究では、19世紀ヨーロッパ文学に登場する「亡霊」の概念と文学的想像力、さらに図像化との関係を追究し(項目1)、物語の構造と亡霊モチーフの関わりを明らかにしようと試みた(項目2)。今年度に予定していた「怪異を語る伝統」と「記載文芸」との関係については、当初把握していなかった複雑な問題(「信じる」ということの歴史性、「信じる」ことと「書く」ことの関係、現実と文学の関係、芸術としての文学の成立等)が含まれることに気づいたため、13年度に継続して成果をまとめることとした。 1.日本語の「亡霊」にあたる英・仏・独の語彙を比較した結果、そこには大きくわけて「死者(時には生者)の魂の現前したもの」としての亡霊、及び「悪魔の介入する幻影としての亡霊」との二つの系譜があることがわかった。また、「亡霊」という概念の持つ時間性(記憶や忘却)・空間性(他界のイメージ)について考察し、それらの特徴が亡霊を主題とする図像(挿絵や文学的主題を持つ絵画)においてどのように表れているかを明らかにした。この項目の研究結果は、次ページ「研究発表」のEQUINOXE掲載論文、及び『比較文学』掲載論文(部分的に関連がある)にまとめた。 2.アールネ・トムソンの国際話型分類を参照しながら、物語の構造の中で「亡霊」という登場人物の果たす役割について考察した。大きくは、人間的で保護者的・好意的な亡霊と、コミュニケーション不可能で一方的に恐怖をもたらす非情な存在としての亡霊とに分類できるが、さまざまな物語においてこれら二つの特徴はしばしば表裏一体となっている。ロン主義時代の文学作品に多く見られる「恋人の亡霊」というモチーフは、魅力と恐怖の共存を典型的に示しており、亡霊というモチーフの複雑さを示している。この項目に関する研究結果の一部が、『二画文學研究』に掲載した論文である。
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