本年度は計画の初年度であったので、まず文献収集と研究状況の把握に努めた。中世後期における貴族の実力行使(フェーデ)については、それを法的に許容された権利実現手段としてとらえ、近代とは異質な中世社会の性格を示すものである、というオットー・ブルンナーの学説が、従来大きな影響力を持っていた。これに対して近年の研究は、あるいは中小貴族の実力行使を領邦君主の支配強化に対する抵抗と生き残りの戦略という観点からとらえ、あるいは貴族層が総体として農民身分を支配する前提を作り出す機能を有していたと指摘するなど、より多様な見方を提示している。また、実力行使の態様にある程度の制約が課される際に、明文化された法規範の定立と並んで、あるいはそれ以上に、貴族仲間の間での評判や名誉が大きな役割を果たしていたことも、近年の研究によって示唆されている。一方、対象とした南ドイツ都市の刑事裁判手続と都市における学識法については、時期的に15世紀の後半が、重要な変化が集中して起きた時代であったことが、改めて確認された。 以上のような研究整理をふまえて、ドイツへ渡航し、現地で史料調査を行った。本年度は、最も史料の豊富なニュルンベルクに対象を絞り、同市の州立文書館および市立文書館において、15世紀後半の時期を中心に調査した。都市と周囲の貴族とのフェーデの一件書類や都市の牢番が残した記録など、各種史料を閲覧したが、とりわけ学識法曹の鑑定や助言を集めた「助言集」をマイクロフィルムの形で入手することができた。また、ドイツ滞在中に、イエナで開催されたドイツ法制史学会に参加し、ヴユルツブルク大学のヴィロヴァイト教授など刑事法史に造詣の深い研究者と意見を交換した。
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