本研究は、欧州司法裁判所(いわゆるEC裁判所)および欧州人権裁判所の判決の国内的効力ないし先例としての影響力に関する分析を手がかりとして、日本国憲法における国際関係の司法化への対応のあり方を明らかすることを試みるものである。 したがって、資料・文献の調査・分析に基づく実証的研究が中心となる。所属機関に所蔵されていない資料・文献も多いので、新規に購入するほか、国立国会図書館・東京大学・北海道大学等に赴いて調査・収集を行った。さらに、国際人権法学会第13回大会において「国内裁判所による国際人権法の実現とその限界」と題して報告を行い、学会員と意見交換を行った(外国旅費については、所属機関の異動による事情の変更により、計画通りには執行できなかった)。 そうした調査等に基づいて、本年度は、昨年に引き続き、条約機関の意見ないし見解が我が国の国法体系において有する意昧について考察を深めた。とりわけ、我が国が国際人権規約第1選択議定書を批准した場合の規約人権委員会の判断が有する先例としての意味をも視野に入れつつ、類似の問題状況についてのドイツ連邦共和国の学説・判例の分析を進めた。その成果の一部は、今年度中に公刊予定の著書(研究代表者の単著)に書き下ろしとして収録した。人権保護の普遍的な基準の具体的内容を解明する役割を担うものとして条約機関が設置されている場合には、条約機関の示す解釈が遵守すべき条約の内容と考えられることとなる。したがって、「日本国が締結した条約……は、これを誠実に遵守することを必要とする」という日本国憲法第98条第2項の憲法的決定の要請によって、規約人権委員会の意見・見解は、国内裁判所においても可能な限り顧慮されなければならないのである。
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