今年度は、本研究の1年目であったため、介護保険法を中心とするドイツの公的介護保障制度の現状と、運用上の問題状況を把握すべく、文献や資料等の収集、整理を行うことが、作業の中心を占めた。具体的には、9月中旬から下旬の時期に、ハイデルベルグ大学法学部図書館とドイツ公私扶助連盟資料室に出向き、調査および文献・資料等の収集作業を行った。 これらの作業の結果、ドイツにおいては、介護保険法施行後、民間事業者、とりわけ営利事業者が福祉市場へ参入する例が著しく増加していることや、営利事業者数が法施行前と比較すると著しく増加している実態があることが分かった。また、介護保険法施行後まだ5年余りが経過したばかりであるにもかかわらず、もはやすでに、ドイツの公的介護保障システムには改善の必要性があることが広く認識されつつある状況であることも知ることができた。そこでは特に、在宅介護サービスの場合のサービスの質の確保をいかに達成するかという点が問題とされており、この問題に関しては、多くの論者が、サービスの質を確保するための規制を強化することによって、国家の役割の拡大をもたらし、事業者の自主性や営業の自由を損ないかねないことを考慮に入れながら議論を展開している状況があることも把握できた。 今後は、これらのドイツの最新動向を踏まえて、介護保険制度を基軸とした公的介護保障システムの意義と課題や、公的介護保障における国家の果たすべき役割について、理論的検討を深めていく必要がある。
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