平成12年度における標記の研究課題のもとでは、以下に示すとおり、いわゆるイギリス一八四四年外国人法を題材とした検討を行った。 一八四四年に「外国人に関する諸法律を改正する法律」が制定された。当該法律の制定に際しては、そのための準備作業を行う委員会が議会内に設置され、従前のイギリス国籍法制について総括的検討を踏まえて、爾後の立法の指針となる基本原則を提言する報告書を出している。本年度の研究においては、当該立法の内容、当該報告書および議会議事録に基づいて、イギリス国籍法史研究の成果を踏まえつつ、この法律の同国国籍法史における位置づけについて検討を行った。その結果として、当該法律制定の意義として、以下の点について明らかにし得たものと考える。 第一に、イギリス国籍法制は新たな局面を迎えることとなった。それは、この法律の制定により、制度上の法的地位として、国民と外国人という二項対立の図式が、明示的かつ自覚的に国籍法制内において確立されることとなったという点である。 併せて第二に、近代におけるイギリス国籍法制の史的展開という文脈において考えた場合に、この一八四四年法が、一八七〇年帰化法と相俟ってイギリスにおける国籍法制の近代化の完成を画するものであるとの理解を提示した。 付随して最後に、以上の考察が行われた際の中心的な問題意識は、イギリスにおける植民地帝国の形成が、国籍法制に決定的に重大なインパクトを与えていたという視点であった。
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