本研究は、憲法と国際人権法の「共生」関係を描出するために、両者が相互に影響を及ぼし合いながら継続的に発展する「過程」を究明する。そのために、(1)ヨーロッパ人権条約を国内法化するために制定された1998年イギリス人権法が2000年10月に発効するまでの準備過程および(2)発効後の実施過程が主たる検討対象である。平成12年度は、イギリス政府が人権法実施のために行った全措置を網羅的に調査研究することに主眼をおいた。 具体的には、まず人権法の内容および実施に関する文献・資料を渉猟し問題点を明らかにし、質問表を作成した。次に、2000年10月29日〜11月7日にかけて渡英し、主要政府機関、NGO、学者、弁護士に対してヒアリング調査を行った(アポイントメントの設定についてはBritish Councilの援助を受けた)。その結果、(1)人権法実施においては、内務省のイニシアティヴのもとに、二年という時間をかけて、各政府機関において相当入念な実施準備が行われたこと、(2)あらゆる政府機関および裁判官に対して組織的な人権教育が行われたこと、(3)実施準備過程(特に人権教育)において人権NGOが重要な役割を果たしたこと、(4)ヨーロッパ人権条約判例法に関して法律家の間で熱心な取組が観察されること、(5)2000年末段階では実施は比較的成功と評価できることが明らかになった。次年度(平成13年度)は、以上の研究成果を基礎として、発効一年後の人権法の総合的評価を行い、憲法と国際人権法の「共生」関係について、その内容を明らかにしながらイギリスを素材としたモデルを構築する予定である。
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