本研究は、ガット/WTOにおけるダンピング防止税制度の機能を国際経済法学の観点から分析し、あるべき改革の方向を見出すことを目的とする。ダンピング防止税制度をめぐっては、一方で、自由貿易原則に反する非関税障壁だという非難がなされるが、他方で、自由貿易体制にとって必要な制度であるという擁護論も存在する。そこで本研究ではこれら従来の議論を整理した上で、ダンピング防止税制度は、なぜ自由貿易体制において必要なのかを分析することを試みている。 本年度においては、まず、各国国内法上のダンピング防止税制度の誕生、国際法規としてのガット6条の成立、東京ラウンド及びウルグアイ・ラウンドにおけるダンピング防止税協定の交渉といった、一連の歴史的過程の中で、ダンピング防止税制度の趣旨・目的・機能がどのように考えられてきたか検討した。具体的には、第1に、第2次世界大戦前から現在までの各国のダンピング防止税制度についての旧法令・判例で、主として米国に関する資料を収集した。第2に、国際連盟、国際連合、ガット/WTO等で行なわれた国際交渉に関する資料も収集した。特にガット/WTOの公文書については、本研究にとって非常に重要な文書を、WTO本部(ジュネーヴ)において入手することができた。 以上の資料を分析した結果、起草時におけるガット六条は、ダンピング防止税を基本的には非関税障壁の一つと位置づけていたが、東京ラウンド以降はダンピング防止税の必要性を強調する傾向が強まったことが明らかになった。そのため、ガット六条の正常価額要件と実質的損害要件は厳格なものとして起草されたが、近年ではこれを緩和してダンピング防止税を発動しようとされ、困難な解釈問題が発生することになったことも判った。すなわち、ダンピング防止税制度の趣旨・目的は、そもそもは異常競争防止説という理論的根拠に沿っていたと考えられ、諸要件もそれに合致したものであったが、その後、競争条件平準化説、緩衝的制度説、競争政策説等、諸説が提示され、ウルグアイ・ラウンド協定はこれらの理論的基盤に関する議論がまとまらないまま成立してしまったのである。
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