平成12年度は、メルボルン大学法学部のM・スミス教授研究室や財団法人金融情報システムセンター等の国内調査機関等を訪ねて、アジアの電子金融取引法に関する一般的な情報や具体的な法整備支援に関する情報を入手したり、専門家を招いてM&Aの法律問題を議論したほか、ECOM等の専門家を招いてアジアの電子取引法整備に関するシンポジウムを企画した(開催は平成13年度)。電子金融取引法の中には、一般契約法、資金・証券決済関連法、貸付や有価証券法、M&A関係法など様々なものが含まれる。実際、そうした幅広い問題関心に立ち、(1)IMFを中心に進めている国際金融システム改革の中で浮上したソブリン債へのcollective action clauses導入について論文を纏めたり、(2)インターネット・バンキングのセキュリティに関する共著書を書いたり、(3)郵便貯金が行う電子金融取引の課題と展望について論文を纏め、何れも出版した。また、日本の電子金融取引の法的諸問題に関しては青林書院から近日中に共著書を出版予定である。こうした中、最も大きな関心のある事項は資金決済システムに関する関連法整備であり、(1)決済システムの中で数多く採用されているマルチラテラル・ネッティングの法的有効性は確実か、(2)決済システムの中で支払が取消不能になる時点(決済ファイナリティ)はいつか、(3)中央銀行や国の決済システムに対する監督権限は明確か、について日米欧豪とアジア諸国を比較したい。欧米豪では、上記3点に関する立法が近時相次いで出されたのに対し、日本では何れも法的有効性が不明確なままである。例えば、マルチラテラル・ネッティングは有効性が疑問視されたまま全銀システムで相変わらず採用されており、決済ファイナリティも不明確なままである。また、日本銀行や日本政府が民間決済システムをどう監督できるのかについての規定は不明確である。こうした日本の状況の改善提案については平成13年度に研究書として纏めるつもりであるが、本科学研究費に伴う研究では、これを一歩進めて、アジア法整備支援の観点から日本の失敗例を参考にアジア各国の諸法制を見直したい。予想される結論としては、シンガポールやマレーシアなど一部に法制の進んだ国もあるが、インドネシアや中国等で何か改善すべき点が見つかるように思われる。
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