研究概要 |
平成12年度は,インターネットを利用した知的財産の取引についてアメリカ合衆国の法制度の理解を深めるとともに,日本法への解釈論へとつなげる土壌作りに研究の重点を置いた。 特に,最近では,MP3という圧縮技術を使用して,インターネットに接続しているユーザーがパソコン内に保存している音楽ソフトの検索を可能とし,その送信を促進するサイトが登場している。その一つであるナップスターに対してレコード会社が訴えた裁判に関しては,アメリカ合衆国で既に幾つかの判決が下されている。知的財産法における取引と公序という視点からこの問題を俯瞰すると,インターネットのユーザー間で音楽ソフトを簡単に取引しうる環境が技術的に整った場合に,知的財産法がどのように対応していかなければならないのか,その際に,これまでは著作権者が有することに異論は少なかった公衆送信禁止権が,ユーザーの自由を過度に制約するものに変わっているのではないか,ということが問われている,といえよう。 解釈論としては、少なくとも日本の著作権法の下では、こういったソフトを用いてインターネットで音楽ファイルを交換するユーザーの行為自体が著作権侵害になることを否定するのは難しい。しかし,著作権法の究極的な目標が,著作物の創作活動を刺激することによって著作物の普及を促すことにあるのならば,その目的を実現しうるように,技術や社会の環境の変化に合わせて,著作権法も変わっていかなければならない。たとえば音楽ファイルの交換は自由にできるとしつつ,それに応じた一定の対価が著作権者に環流するような技術的、法的仕組みを構築することが考えられる,というのが,本年度の研究によって得られた暫定的な結論である。
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