本研究の目的は、民事司法改革の眼目の一つされる裁判外紛争処理方法(ADR)の活性化・拡充の方向において、国家の司法制度の存在意義やADRとの連係はどのように行われるべきかを検討することにある。本年度は、英米法圏に比べて従来ADRが低調だといわれてきたドイツ法においてもADRの積極的活用へと方針転換が行われた理由を探ることを課題としてきた。研究計画段階において、ドイツでADRが注目されるようになった理由として、第一に国家司法の負担軽減、第二に紛争解決概念の質的変化、第三に弁護士の新しい職域探求があるのではないかという推測をもって本研究に着手した。 現時点で得られた成果は次の通りである。まず、司法の負担軽減に関しては、現在進行中の民事手続法の全体に渡る大改正の文脈でADRの問題を検討すべきことが明らかになった。特に、一般的なADR前置主義の導入と控訴権制限を内容とする改正草案をめぐって激しい論争があり、注目しているところである。第二、第三の理由として考えられた新しい紛争解決方法の探求及び弁護士の職域拡大については、米国のADRブームに影響を受けた新しい世代の法律家の存在が大きいことが確認された。米国流のADR会社も2000年に設立され、法曹界のみならず経済界を巻き込んでめざましい活動を行うようになった。膨張する弁護士人口との関係では、専門弁護士制度、弁護士責任論、弁護士広告の範囲、弁護士費用融資会社、さらには法曹教育(私立ロー・スクールの新設)をめぐって大きな変動が見られ、ADRと法律(法化社会)の関係を論じる際に不可避の課題になっている。他方で、市民・非法律家にとってはADRを紛争解決の選択肢と考えることはまだなじみがないようである。そのために、法律家・団体からの啓蒙活動の盛んなことが目に付いている。
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