不動産登記制度の理想は物権変動の過程を可能な限り真実に合致する形で記録することである。ところが、判例・通説は二様の意味でこの手続法上の理想を後退させている。第一に、登記は物権変動を公示するものであるから、物権変動の原因である債権法上の権原に関してはあまり厳密な正確さを要求しない点である。例えば実体は贈与が原因であるのに、売買を登記原因としたとしても、物権変動の効果=所有権移転が正しく公示されることに変わりはなく、原因が真実に合致しない登記でも直ちにこれを無効とはしていない。第二に、既になされた中間省略登記は中間者の同意を欠く場合にも有効性を承認されており、登記簿が現在の法律状態を正しく公示していれば、途中の経過が真実に合致していなくとも、特にその登記抹消を求める正当の利益を有する第三者が存在しない限りは、抹消を請求しえないと解されている。中間省略登記請求権も一定の要件で認められている。第一点に関しては、わが国の意思主義(民176条)につき、債権契約の効果として物権変動が生じると見る理解よりも、むしろ債権行為(契約等)から抽象された物権行為が実体法上も措定されていると考える立場との親和性が高い。第二点について、判例は、中間省略登記をはじめとして、実体的な権利変動過程と厳密に一致しなくても、現在の法律状態を正しく公示できていれば登記の有効性を認める傾向にあり、登記の財貨帰属公示機能を重視するものと分析しうる。このように、登記の効力及び中間省略登記請求の問題において、登記の財貨移転過程と共に財貨帰属状態を公示する機能が重視される一方で、登記手続法上の要請が譲歩を余儀なくされているといいうる。今後は、手続法との密接な相互関連性を踏まえて、広く登記請求権全般をめぐる実本法理論を見直すことにより、判例・通説に伏在する問題点を明らかにし、具体的提言へと発展させてゆきたい。
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