本年度は、不動産登記制度にとどまらず、広く債権譲渡登記制度の将来像にまで視野を広げて、学理的な検討を加えた。その概要は次のとおりである。平成10年に公布・施行された債権譲渡特例法は、債権譲渡に関する民法の一般的な対抗要件である債務者への確定日付による通知または債務者による承諾という方法を残しつつ、債権流動化が特に実務上要請されている、法人による資金調達のための債権譲渡に限り、コンピューター管理されている債権譲渡登記ファイルへの登録を第三者対抗要件とすることを認め、いわば民法典の通知・承諾方式を緩和したものである。これによって、債務者の認識を基軸とする現行の対抗要件とは根本的に異なる新たな第三者対抗要件制度が導入されたことになる。現在のところ、親族間の債権譲渡や企業による単発的な代物弁済としてなされる債権譲渡など、登記よりも民法467条の定める通知・承諾方式がなじむ取引形態に配慮して、債権譲渡の対抗要件を全般的に登記にするというラディカルな改正は見送られた。しかしながら、467条の通知・承諾方式は、債務者による虚言や事実隠匿などの危険性も高いため、公示制度としての不完全性が古くから指摘されていた。そこでこれを機会に、債務者の事務手続きや判断過程の複雑化を招く対抗要件制度の複線化を避けるためにも、民法の基本原則そのものの変更=467条自体の見直しという選択肢も十分に取りえたのではないか、という立法論を展開した。コンピューター化が急速に進んだ現代社会において、かつオンラインによる登記申請が可能になったいま、現行の通知・承諾方式に比べて債権譲渡登記手続が煩瑣で面倒だという議論は早晩説得力を失うであろう。そうだとすれば、特例法にはまだ再検討・改良の余地があるといえる。民法の一般規定、特定債権法(平成5年)、債権譲渡特例法(平成10年)という三法の鼎立という複雑な状況は、債務者への負担を増やすという問題点があるから、第三者対抗要件を登記に一本化する方向で再調整してゆくべきである。
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