今年度は、問題の背景・構造をより深く究明するために、大きく以下の三つの観点から研究を行い、それぞれ次のような一定の成果が得られた。 第一に、フランスの労働社会・労働法制のあり方の歴史的分析である。特に、フランスの社会において「労働」および「法」が果たしてきた役割を歴史的に明らかにすることによって、現在の労働・社会問題の歴史的含意が明確になり、常に社会問題の中心に位置する「人間」の営為・叡知の重要性(例えば「市場」も自然発生的に生まれたものではなく人間が作り出してきた「制度」の一つであること)を再認識することが可能となった。 第二に、フランスの労働・社会問題の理論的考察である。特にここでは、経済学、社会学、歴史学、哲学、政治学等の多面的・学際的な視点から、現在の問題の根幹部分を複眼的に描き出すことにより、問題の多層性・多様性およびこれに対処するための内省的柔軟性の重要性(例えば、経済学的にはレギュラシオン理論的アプローチ、法学的には「手続化」理論的アプローチが一つの選択肢として存在し、これらを有機的に結びつけながら複眼的に問題の発見・解決を図っていくこと)が明らかにされた。 第三に、日本の労働・社会問題の基本的構造の認識と解決方法の探究である。上記のフランス研究によって得られた示唆を踏まえながら、日本の問題を相対的に把握・認識し、そこでの問題点およびそれに対する基本的な対処方法を明らかにすることを試み、今後の議論のために私案(日本における法の「手続化」理論)を提示した。 以上の三つの観点からの研究をより深化させつつ、より具体的な解決手法を提示するための著作(『労働法はどこへいくのか?-フランス労働法制の歴史と理論-』)を、本研究の成果として取りまとめ公刊する予定である。
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