とりわけ大規模事件に関する刑事訴訟の充実・迅速化のための方策につき、次の研究成果を得た。 まず、刑事訴訟の充実・迅速化策として、かつてより期待されてきた集中審理論につき、過去の議論や実務運用の見直しは、とりわけ大規模事件につき徹底した集中審理の実現には結び付かなかった。その理由としては、検察官面前調書や自白調書に大幅に証拠能力を認めている現行法規定の改革に着手できなかったことが大きい。 集中審理を最も徹底したものとしてアメリカの刑事訴訟がある。アメリカの陪審手続をモデルにして、証拠調べ手続を抜本的に事前準備・集中審理型に返還するためには、被疑者の弁護人依頼権の強化、捜査手続における取調べ中心捜査からの脱却、事前証拠開示制度の創設など抜本的改革が条件となる。 他方、参審制をとるドイツの場合、日本よりは集中審理に忠実であるものの、とりわけ大規模事件の場合は審理が比較的長期化することは避けられないことから、むしろ集中審理形式を緩める方向での改革が行われてきた。しかし、その場合も、公判における証拠調べは直接・口頭原則により忠実で、被告人の証拠調べ請求権の保障も厚く、公判における証拠調べは充実している。 以上のような比較法的検討から、刑事訴訟の充実・迅速化のためには市民参加による集中審理方式の徹底を基本としつつ、大規模事件の特徴から生じる個別の問題に対応するためには、常に事前準備において審理計画を確定してしまうことは妥当でなく、公判の証拠調べを通じて審理計画を変更して行く余地を残す必要があるとの結論を得た。また、事前準備型の実現のためには、総じて公判前の段階の被疑者・被告人の権利の強化とあわせて、議論されていることが明らかになった。
|