国際貿易の拡大に伴い、各国の環境・衛生規制の差異が国際貿易を阻害する非関税障壁と認識されるようになり、WTO(世界貿易機関)やEU(ヨーロッパ連合)等では、これら環境・衛生現制の調和化(ハーモナイゼーション)が試みられつつある。しかし、環境・衛生規制は、各国の独自の選好が、歴史的制度的に反映する分野であり、また、各国の産業にとっては保護の名目ともなるため、調和化は困難でもある。本研究では、このような環境・衛生リスク規制について、2つの視角から分析を行った。第1に、各国問における各国の環境・衛生規制の差異の原因を分析した。原因としては、科学的知識の不確実性は1つの要因ではあるが決定的要因では必ずしもないこと、単に貿易財かどうかではなく産業構造が調和化の圧力の有無に意味を持つこと(自動車のように産業構造が国際化していると調和化圧力は大きいが、食品のように分断化きれているとそうではない)、リスク間のトレード・オフについては、各国で異なった判断をしている場合も多いことが明らかとなった。第2に、WTO(世界貿易機関)、FAO(食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同機関であるCODEX(食品安全に関する基準を作成する組織)、UNECE・WP29(国連欧州経済委員会第29作業部会:自動車関基準を作成する組織)の国際基準の制定過程においては、実効性の課題(専門知識の確保)、正当性の課題(NGOの参加形態等)が存在することが明らかとなった。
|