本研究の主題である、ヨーロッパ統合に伴う統治構造の変容については、昨年後半から、テーマに直接関わる重要な業績の上梓が相次ぎ、急速に研究状況が変化した。従って、本年度の前半は、まずこれらの新たな研究の吟味と吸収に勢力を注いだ。中でも、Vivien SCHMIDTは、フランスを中心に、各国内の既存の国家社会関係のあり方の違いがヨーロッパ統合に伴う統治構造の変容にも大きな差異を齎すことを指摘するなど、筆者のアプローチと重なる部分が多く、分析枠組を構築する上で有益な知見を得た。また、Beate KOHLER-KOCHらの共同研究は、こうした視点に加えて、政策分野毎の分析を提唱して、従来の政策ネットワーク研究との接合が有効であることを示唆した。Fritz SCHARPFの研究は、筆者とはちょうど反対に、ヨーロッパ・レベルで形成されつつある統治構造から各国内の統治構造との接合を考察しており、双方向の視点を取る必要を感じさせられた。 並行して、フランス以外の西ヨーロッパ各国の既存の国内統治構造について、文献・資料の収集と解析、データの整理を進めた。併せて、近年のEU統合に伴う統治構造の変容や、政府などのアクターの対応戦略について知見を得ようと努めた。 とはいえ、刻々進行する統治構造の変容の現況を捕捉するためには、現地での資料収集は不可欠である。今年度は、議長国フランスの主導の下、ニースのEUサミットにおいて政治統合が大きな進展を迎える見通しになったこともあり、まずフランスの最新動向について入手可能な資料と情報を集める方針を取った。
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