研究概要 |
本研究が展開された2年間には{研究の開始当時には想定しなかった急速な変化が、政治的現実と研究状況の両面において生じた。研究開始当初は、本研究と同様の視点に基づく研究は萌芽的な段階に留まっていたが、その後、「統治構造のヨーロッパ化」に関する研究が米・EUで急激に進展し、Cowles et al., Transforming EuropeやAdrienne Heritier(ed.), Differential Europeに代表される、理論的な分析枠組の提起だけでなく、政策分野別の綿密な実証分析をも行った研究が次々と発表された。同時に、政治的現実の面でも、非公式の政策過程の変容という域を越えて、公式の政治統合の進展が具体的な日程を伴った検討課題となるに至った。 従って本研究も当初の予定を若干変更せざるを得なくなった。作業が大幅に遅れた結果、論文はなお執筆途上であり、研究成果の公表は来年度中にズレ込むこととなったが、その概要は以下の通りである。農業、環境、産業、社会保障、労使関係などの多様な政策分野を検討した結果、EUレベルの政策決定過程は、自国のモデルを輸出しようとする加盟国間の競合関係の結果、分野毎に極めて多様なモザイク模様となったといえる。その結果、いずれの加盟国もEUレベルから国内統治構造に向けて適応圧力を受けることとなったが、むしろ、この圧力に対して統治構造が示した適応能力こそが、各国における政治的・行政的危機の様相を規定することになったという結論に辿り着いた。「競争的コーポラティズム」同様に、国内の政策ネットワークのメンバーとの合意・協力によって統治構造の改変を実行し得たドイツ、オランダ・モデルが、今までのところ最も負荷が少ないように見えるのはそのためだったのである。現在進行中の政治統合を巡る構想も、この統治構造への圧力と適応という観点から検討され直さねばならない。
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