(1)これまで国際政治学において地域主義や地域統合のモデルとして、西ヨーロッパ地域に関心が集中されてきた。だが、南米においても地域主義的な市場統合や安全保障のプロセスが進展している。これらは新自由主義的な経済政策に力点を置くものであり、1960年代の一国主義的な輸入代替工業化の延長上で考えられた統合のプロセスとはまったく異質なものである。 (2)核/原子力の分野においては南米地域の二つの地域大国であるブラジルとアルゼンチン両国が地域的な核不拡散と原子力管理を目指して、1991年に「ブラジル・アルゼンチン核物質計量管理機関(ABACC)」という国際組織を創設している。これによって両国の核疑惑は払拭されるとともに、域内諸国のあいだの信頼醸成が高められた。さらに、南米南部共同市場(メルコスル)にみられる経済的な地域統合が強力に推進される契機となった。 (3)通常戦力の分野においてもメルコスル諸国間の信頼醸成は進展している。とくに海軍を中心に共同演習が頻繁に行われているが、従来の米国を中心としたものから地域的なイニシアチヴが重視されている。具体的には、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、南アフリカ共和国、(オブザーバー参加のパラグアイ)の五カ国による南大西洋海軍共同演習(ATLASUR)が代表例である。さらに「共通の安全保障システム」も国防当局者間で議論されている。 (4)本来、経済機構として発足し、共同市場の創設を掲げたメルコスルにも「政治化」の兆候が認められる。パラグアイのオビエド将軍のクーデーター未遂事件においても、メルコスルは加盟国資格要件としての「民主主義条項」を提示することで、軍事政権を拒絶した。さらに、首脳会議において、域内の大量破壊兵器の禁止を訴えた「平和宣言」を採択している。統合の前提に平和と民主主義を要件としたことは域内の信頼醸成をさらに促している。
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