本研究は、国連やOSCEなどによる平和構築活動に焦点をあて、さらに平和構築のための法の支配アプローチと呼びうるものを探求した。 平和構築とは、紛争の起こった地域で永続的平和の基盤を作る活動を指す。平和構築は政治的・社会的・経済的分野での多岐にわたる諸活動を含みこむ概念なので、効果的に地域の永続的平和を達成するための戦略的視点が必要となる。その一つは、人間社会には対立が必然的に起こるが、それを軍事衝突にまで発展させず、政治的・法的枠組みの中で処理するとの発想である。このような戦略的発想にもとづいて、法の支配が、平和活動に携わる実務家や研究者に重要視されることになった。 平和構築の法の支配アプローチという戦略的視点は、多岐にわたる平和構築関連活動を総合的に調整する役割を果たす。近年人権法・人道法違反の調査報告に関わる規定を盛り込んで、暫定的憲法としての機能を果たすようになった和平合意の作成は、平和構築の法の支配アプローチの出発点である。和平合意に社会契約論的正統性を与え、永続的憲法典作成への制度を作り出すのは、選挙実施である。さらに和平合意が権威づける国際社会の標榜する法規範に支えられて、法執行機関が強化される。現地警察機構の創設・改革は、時には国際社会による警察学校運営という方法まで介して、現地警察官が国際水準に見合った活動をするように指導する。ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるNATO軍(SFOR)のように、必要に応じて軍事部門が法執行に携わることもある。司法機構改革は、法の支配アプローチにとって決定的に重要である。現地司法機構の整備や、検察官・判事の訓練だけではなく、国際戦犯法廷という形で国際社会が司法介入を行って、法の支配の文化の注入に努めることもある。さらに人権監視活動や真実和解委員会などの非強制的な領域での活動も、法の支配の文化の確立という観点からは、重要である。
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