本年度中は日本の金融政策の実証研究に大きな進展が見られた。第一に、日本の金融政策が利子率の期間構造に与える影響に関する分析を行った。特に、金融政策をはじめとするマクロ経済的ショックが債券市場における価格づけにどのように反映されているかを分析する手法を編み出して、これを日本のデータに応用した。第二に、日本の金融政策が株式市場に与える影響を分析した。これはベクトル自己回帰モデル(VAR)によって金融政策ショック(およびその他のマクロ経済ショック)を識別し、次にそれが産業別株式収益率にどのように反映されるかを一般化積率法(GMM)によって分析する、というものである。これら二つの研究はいずれも最新のファイナンス理論に基礎を置いたものである。両者とも東京大学のR.Anton Braun氏との共同研究であり、すでに日米数箇所の研究会および学会で報告済みである。最終的な成果は国際的学術誌で公開する予定である。また、これらの研究に関連して、新しいコンピューター・プログラム(特に時変係数VARモデルに関するもの)を作成し、また金融政策に関する最近の理論的な研究を丹念に検証した。これらは来年度の研究の発展に生かされるであろう。 これ以外では、ヨーロッパ通貨統合の是非を問う従来からの研究を、先に述べた時変係数VARモデルを応用することによってより信頼度の高いものとした。一方で、『経済分析』上において、最近の景気循環理論の発展を、いわゆる実物的景気循環理論に焦点を当ててサーベイした。来年度はこの作業で学んだ知識を日本の金融政策の分析に応用していく予定である。 一方では、日本の地域データを用いた経済成長の研究においても大きな進展が見られ、下の第11項に見られるように、いくつかの論文を公刊した。その中には国際的な学術誌も含まれる。また、『フィナンシャル・レビュー』上で最近の経済成長に関する実証分析をサーベイした。そこで得た知見を生かした研究を現在、理論面(デューク大学のPeretto助教授との共同研究)と実証面(世界銀行の河合正弘氏との共同研究)の両面から進めているところである。
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