本研究では、日本の家計のライフサイクルを通じたポートフォリオ選択について、日経Radarの個票データを用い、特に家計の株式保有と不動産保有の関係に着目して分析を行った。主な発見としては、第一に、家計の金融資産に占める株式の割合(S/FW)は、若年期に上昇し50歳台でピークを迎え、その後ほぼ一定となる。これはAmerkis and Zeldes(2001)で報告されている、アメリカにおける家計のS/FWに比べ、かなりライフサイクルの遅い時期にピークを迎えている。第二に、S/FWとほぼ同じパターンが、家計の総資産に占める不動産の割合(RE/TW)についても観測される。第三に、S/FWとRE/TWのライフサイクルを通じた変化については、どちらも株式/不動産を保有するかの意思決定によって、その大部分が説明される。第四に、不動産を保有している家計については、その株式保有に年齢と関係した顕著なパターンは見受けられない。このような発見は、観察されるライフサイクルを通じた株式の保有パターンが、持ち家保有に関する意思決定に大きく影響を受けていることを示唆している。持ち家を購入使用としている家計、あるいは購入したばかりの家計は、住宅ローンで既に巨額の借金をしているために、金融資産投資においてリスクのあるポジションをとれない。したがって、日本の家計のダイナミックなポートフォリオ選択をモデル化しようとする試みは、株式投資に与える家計の持ち家状況の影響を念頭において行われなければならない。また、日本の家計があくまでも(貸家ではなく)持ち家にこだわる背景には様々な構造的要因があり、住宅市場を巡る税制・借地法などの改革は、家計の金融資産投資のあり方にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
|