本年度は、「特許における早期公開制度の経済学的意義」という論文を書き、平成13年1月に一橋大学産業・労働ワークショップで報告した。また、平成13年5月の日本経済学会春季大会でも報告する予定である。内容について説明すると、平成11年に公布の特許法改正によって、全ての出願が自動的に出願日より18ケ月後に公開されていたのが、出願者の申請があれば、それより前に公開できることになった。この早期公開によって、出願者が自分の技術のタイプをシグナリングできることを示した。現在、日本はアメリカ以外の諸国同様、先願主義をとっている。企業は、将来の収入に結びつくような技術でなくても、一日でも早く出願するという行動をとるため、出願後特許が取得されるまでは、玉石混交の状態にある。技術を利用して商品化したい、または、ヴェンチャー企業のように、技術を自分で商品化できないので、利用してもらいたいというニーズが強いのにも関らず、実現化されていないというのが実情である。そこで、本稿では、早期公開をすることによって、自分の技術をより利用、商品化してもらいたい、または、その可能性が大きいことをシグナリングできることを示した。さらに、このシグナリング均衡を存在させるためには、以下の政策が必要であることを示した。第一に、技術の使用によって、公開から特許取得までに発生した利潤の一部を請求できる権利である補償金請求権を担保すること、第二に、補償金請求権を行使した場合の実施料率は、現在、売上の2-3%と非常に低いので、これを高めるべきであるという政策提言を行なった。現在、補償金請求権を行使した場合の実施料率を何%ぐらいに設定すれば、早期公開制度のシグナリング機能を有効にすることができるのかシミュレーションを行なっている。
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