第1に「ロシアの企業は誰のものか?」というコーポレート・ガバナンスに関する問題である。石油・電力・天然ガス・通信・アルコール製造・トラック製造分野の巨大企業に関して、アメリカン・スタンダードに基づくリスク・カテゴリー別に分析を試みたが、自然独占体企業はまったくグローバル・スタンダードとは無縁の経営基準をもっていることが明らかになった。プーチン政権下での改革の焦点にもなっている点であるが、現段階ではロシア型ともいうべき汚職構造と結びついた独自のコーポレート・ガバナンス構造を持っていると指摘することができる。バーター取引(GDPに占める割合40%)、未払い問題の存在は、ロシアにおける企業行動とコーポレート・ガバナンスを特徴づけるものとなっているが、その割合こそ減っても完全に消滅するまでは至っていない。この問題を市場化を阻む要因として考えるのではなく、ロシア経済の特徴としてと考えることが重要である。 第2に金融産業グループ、オリガルヒ(寡占資本、政治権力と民営化企業の癒着)の現状分析を通じて明らかになったのは、旧来社会学が対象としていたエリート分析を経済学の枠組みに入れないと問題解決をみないということである。企業分析から研究に取りかかったが、最終的にはロシアにおける公式経済と非公式経済、市場取引と非市場取引を経済社会学の手法で分析することを着想するに至った。
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