2年間にわたって、経済システムの多様性をどのように把握するか、すなわち経済システム概念をいかに再構築するかについて研究を行った。本研究では、市場経済システム内部における企業組織の多様性という観点から、主に生産協同組合組織を取り上げた。協同組合を分析するにあたって、従来の二元的経済システム把握に代わり、第3の経済秩序としての「社会的経済」あるいはその構成原理としての「協同の原理」を明示的に取り入れた点は、本研究の独創的な点である。 協同組合組織の経済効率上の可能性として、人的資本投資にともなう諸問題を抑制する機能に注目し、そこから市場経済システムにおける協同の原理の役割を議論した。協同組合の経済的viability(存立可能性)とその構成原理としての協同の原理は、これまで別々に議論されてきた、あるいはその関連が十分に考察されてこなかったが、本研究での考察によって、その連関の一部を明らかにすることができた。ただし、ここで示されたいくつかの制度的諸施策が、組織の置かれた市場環境と技術的条件のもとで可能であるという条件は、協同組合という協同の原理にもとづく経済組織のviabilityを制約するものとして示されている。 同時に、二元的秩序把握から多元的秩序把握への展開における理論的困難性、経済効率性以外の価値をも重視する組織に関する企業理論的分析および実証分析の困難性など、本研究から明らかになった課題も大きい。
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