研究概要 |
本奨励研究(A)において、初年度は通貨危機前のアジア新興工業国の経済成長における生産性計測に関する実証的研究を行った.まず通貨危機以前のアジア新興工業国の経済発展と生産性を考える上で,クルッグマン(1994,"The myth of Asia's miracle",Foreign Affairs,vol.73:pp.62-78)は興味深い.これまでのアジア諸国の経済成長は,全要素生産関数の生産性指数(TFP)計測による生産性の向上がみられず,一時的な現象であるとクルッグマンは分析しているが,Osaka(2000a)はトランスロガリズムによるTFP値計測や,共和分分析・誤差修正モデルによる計量分析という異なる分析手法を用いて通貨危機以前のアジア諸国(韓国,タイ,フィリピン)における生産性向上の実証分析(サンプル期間:1960-93)を試みた. 実証分析の結果,全要素生産関数におけるTFP計測値は上昇トレンドを示し,共和分分析における生産性の擬似変数の係数推定値もサンプル国すべてでプラスとなるなどサンプル期間においては生産性向上を示すものとなった.同様の結果は誤差修正モデルにおいては必ずしも得られなかったものの,TFP計測値の上昇トレンドや共和分分析による韓国・タイ・フィリピンの生産性向上の可能性とを合わせて考慮すると,通貨危機以前にアジア新興工業国の経済成長の過程で生産性向上はなかったとするクルッグマンに対する反論を提示するものとなった. 尚,上述の研究成果に加えて,Osaka(2000b)は経済成長に伴うアジア地域内での貧困・所得分配の計量分析をも行い,地域内においてはクズネッツ逆U字カーブが支持されないことを示している. また本奨励研究の一環として,Robert J.Barro(1997),Determinants of Economic Growth:A Cross-country Empirical Study(MIT Press)(大住圭介氏との共訳)の翻訳を行った.
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