本研究の第2年目にあたり、Kuznetsの逆U字仮説について、アジア新興工業国における経済成長に伴う所得分配と環境問題の2つの側面から実証分析を試みた.本研究では、回帰分析にて世界銀行などの国際機関で利用可能なアジア太平洋諸国のデータを用いてクロス・カントリー分析や時系列分析を行なった. 回帰分析では次のような結果が得られた.まず所得分配に関するKuznets仮説については、一見成立するように見えるが、所得レベルを示す変数のパラメータの安定性は低く、他の説明変数を付け加えるなど回帰式を変えれば仮説は支持されなくなる.つまり、Kuznetsの逆U字仮説が成立するかどうかは回帰式の条件次第である.この点については、環境Kuznets曲線のクロス・カントリー分析についても同様であり、常に支持されるわけではない. また本研究でKuznets仮説の検証に際して注目した工業化は、所得分配の不平等度の低下もしくは貧困の削減に寄与するものの、その影響はモデル次第であり、パラメータの安定性に問題がある結果となった.また人口増加は所得分配の不平等度を拡大させる効果を示し、経済成長率や投資比率の増大は不平等度の低下や貧困の削減こ寄与することが示された.環境汚染に関しては、投資比率の増大が悪化を引き起す結果となっている.また地域別ダミー変数は統計的に有意であり、所得分配や環境汚染の両面で地域性も重要な要因として示された.また国際データによるクロスカントリー分析では、新興工業国を中心に今後も経済成長に伴い環境汚染排出物(本研究ではCO2)の増大が予想されるため、重要な政策課題として環境問題に取り組む必要性が提示された. 尚、全般的な援助の経済効果についても実証分析をおこなったが、冷戦終焉後にその効果が低下していることが実証的に示された.
|