本研究は中国における国内市場の統合実態と促進要因を明らかにし、市場統合に向けての是正策を提示している。 2000年夏に中国の5都市を調査した結果から見ると、1992年市場経済化目標を確立した後、国内市場の統合は着実に進行している。市場統合を促進したマクロ的要因は1994年の「分税制」の導入であり、その実施によって、中央政府と地方政府の経済関係が明確化され、地域間の財政分配関係は標準化された。市場統合のミクロ的要因は、国有企業と地方政府の関係の変化にある。国有企業の経営悪化と非国有セクターの急成長が同時に進行し、地方政府の政策重点は国有企業から非国有企業に移った。また、社会保障制度の充実、株式制度の導入、企業の集団化と吸収合併の加速によって、国有企業の脱政府化・脱地方化が進み、地方政府が国有企業を保護するインセンティーブも弱まった。 ただし、国内市場の分断化問題は完全に解決していない。地方政府と企業の癒着関係がますます進み、企業は「非価格競争」の一手段として、地方政府や主要幹部個人に対して献金・賄賂を行っている。その見返りとして、地方政府や主要幹部は権限を利用して、企業の市場を保護することはしばしば発生している。市場分断の目的は地方経済発展、域内社会安定の維持という公的利益から地方政府あるいは主要幹部個人の収入増加のような私的利益に変わり、保護の対象も国有企業から非国有企業へとシフトしている。吉林省JL市アルコール飲料市場の分断はその典型的な例である。 企業と地方政府の間に根強い癒着関係が存在しているかぎり、地方政府の力だけでは国内統一市場は実現できない。国内市場の統合は中央政府主導の下で、中央政府、地方政府と企業の権限・機能の再区分を図り、市場統合の法律を整備し、国民の法律意識と法の権威性を強化するほかない。
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