本年度は、財の消費が地域的に限定されるような公共財(地域公共財)を供給する地方政府ないし一国の政府の間の競争を理論的に分析し、厚生に関する含意を明らかにした。その際、政府の意思決定に関して、意思決定が戦略的な相互作用を伴うこと、政府ないし政府の統治地域の空間的な位置関係が意思決定に重要な影響を及ぼすこと、決定されるべき変数が連続的であるというよりも離散的であると見なされること、の三点に注目した。 線形経済の両端に2国が立地し、その中間に第3国が広がるような空間競争モデルを構築し、両端の国の政府が国際空港を運営している状況を分析した。線形経済の外で生産された財が空港を経由して輸入されるが、その際に政府は空港の利用費を徴収する。利用費の水準と、空港の質を向上させるような大規模投資を行うかどうかについて、2国の政府は意思決定を行う。とくに重要な結論として以下の2点があげられる。 第一は、コーディネーション・フェイリュアの生じる可能性があることである。このとき、政府は、結託して空港への投資を抑制することにより互いにより良い状況に移行できるにもかかわらず、それができない。つまり、公共財に過剰な投資がなされるようになるのである。これは、相手が投資しなかったとき、投資しないよりも投資した方が自地域住民ないし自国民の厚生が高くなるという囚人のジレンマ状態が起こるからである。 第二は、2国政府の競争の結果出現する均衡の結果と、第3国の厚生まで考えたときに最適となる結果が、必ずしも一致しないことである。たとえば、均衡において2国政府がともに空港に投資する場合でも、社会的には、片方の政府、たとえば大きい方の国の政府、だけが投資するのが最適である、ということが起こりうる。どのような状況のときに、このような齟齬が生じるかを明らかにした。
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