研究概要 |
本年度は,満洲の流通経路の確定のための作業を開始し,大豆および綿製品の流通経路と流通額の推定を行なった.その過程で満洲における市場機構の解明のためには,農村市場の形態に注目すべきことに気づいた. そこで当初の調査計画に加え,各種資料の定期市に関する言及を網羅的に収集することとした.国会図書館,東洋文庫,東京大学,天理大,京都大学,富山大学,一橋大学等に散在するこれら資料の収集・解析を行なった. その結果,満洲には中国本土に広く見られる定期市システムが存在しないこと,縣全体を覆う縣城中心の経済が一般的であることが確認された.また,(1)冬季の大地の凍結,(2)大豆への傾斜,(3)商人階層の政治力の高さ,といった要因が市場システムの形態と相互強化の関係になっており,これが近代満洲の歴史を決定する契機となったことを見い出した. この研究により,市場形態とその地域の経済的政治的パフォーマンスの関係を相関させる論理に到達しつつある.また,政治史の分野において,東北地方に特徴的な一種の地域主義の形成が指摘されているが,この問題との関係を解明する糸口になるものと考えている. 既に,以上の内容を纏めた論文を作成しており,投稿準備中である.
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