企業間信用とは、非金融部門(製造業・流通業等)で、財・サービスを販売する際の代金回収延期、仕入れの際の支払延期を行う取引である。これにより、各企業の資金繰りを、銀行に頼らず調整することが出来ることになる。しかし、この非金融企業間の金融的機能には、多くの分析が従来行われてこなかった。特に、金融引締めによって金融機関貸出し態度が厳しくなった際に、「企業間信用による資金繰りの調整が、金融政策の意図を促進させる方向に働くのか、あるいは、減殺させる方向に働くのか?」については、金融政策の効果を考える上で重要な問題である。本研究は、この問いを、卸売業者と製造業者に分けて分析した。 卸売業者の代表としては、総合商社を分析の対象にした。総合商社は、企業間信用取引を活発に行っている。このような活動を、「商社金融」と称した経営学的な文献もあったが、経済学的な分析は不十分であった。そこで、総合商社の企業会計データから企業間信用についての回帰分析を行った。これによると、産業全体に対する「金融機関の貸出し態度」が厳しくなると、商社の純与信残高(=与信額-受信額)は、低下する関係が検証された。つまり、商社の取引相手にとっては、「金融機関の貸出し態度」の厳格化と共に「企業間信用」が、自己の資金繰りにとって厳しくなる方向に動くことを示している。また、時間の経過と共に、商社の純与信残高は低下トレンドにあり、日本の金融市場の発達と共に、商社の与信機能は低下してきていることが明らかになった。 一方、製造業者について分析すると、金融機関の自己への貸出態度が厳しくなると、それと共に、企業間信用も、自己の資金繰りにとって厳しくなるように変化することが明らかになった。 以上の結果を踏まえると、金融引き締め政策で金融機関の貸出態度が厳しくなると、その引き締め効果は、企業間信用を通じてさらに促進されていると言える。
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