MBS等の住宅ローン債権の証券化におけるプリペイメント・リスクの分析については、プリペイメントの記述法の調査を行った。その結果、まず個々の住宅ローンの返済行動に関するデータが利用可能な場合については、生存時間分析の比例ハザードモデルを用いたプリペイメントのモデル化が行われること、パラメトリックな設定ならば利用しやすく実務への応用も容易であること、ノンパラメトリックな推定へも拡張されることが分かった。この方法を用いて分析を行うためのデータの収集は(債務者の個人情報となる可能性があるため)困難であるが、現在、公開可能なデータについて肯定的に交渉中である。分析に必要な統計ソフトウェアの整備は行ったので、来年度はこのデータを用いてプリペイメント・モデルの実証分析を行う予定でいる。 一方、個々の住宅ローンの返済行動に関するデータが利用可能でない立場からのプリペイメント分析についても調査を行い幾つかのモデルを整理した。このアプローチは、個々の債務者について詳しい情報を持たない投資家の立場から、MBSへの投資を考えるのに役に立つ。その意味でのMBSへの最適投資問題も分析する予定である。 保険リスクの証券化については、ジャンプ・リスクを評価するために利用されている状態価格の選択方法について考察した。その結果、大規模自然災害リスクの価格決定についてしばしば用いられるエッシャー変換法を、市場参加者である保険会社のリスク分担行動の結果と解釈することは、市場で観察される保険供給量の変動と整合的でないことが分かった。この意味で、保険リスクの価値をエッシャー変換を用いて評価することは、少なくとも大規模自然災害リスクについては経済的基盤を持たず、その利用には注意を要する必要があることになる。
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