2001年度は、「構造基金」に焦点を絞って実証研究を進めた。構造基金とは、欧州委員会の独自財源を原資とした地域開発資金である。それは当初、欧州予算においてごく小さな比率しか占めていなかった。しかし1980年代以降、欧州統合の加速とともに急速に構造基金の重要性は上昇していった。現在、欧州予算では、農業関連予算についで第2位の地位を占める。その目的は、地域間経済格差の縮小、産業構造転換による衰退地域の支援、さらには失業者の教育・訓練などである。 2001年10月には、日本財政学会において構造基金に関する報告を行うとともに、11月にはブリュッセルへ調査に行き、欧州委員会を訪ねてヒアリングと資料収集を行った。その結果、国別の一人当たりGDPで見ると地域間格差は縮小傾向にあり、構造基金も一定程度、それに貢献したと評価されていること、しかし、もう少し小さい地域単位で一人当たりGDPをみると、地域間格差は必ずしも縮小傾向にはなく、むしろ拡大している可能性すらあることが分かった。したがって、構造基金の地域間価格差縮小への貢献は、不確かである。しかし、大変興味深いのは、構造基金の運営自体が新しい公共政策の方向性を指し示している点である。つまり、それは全体としてハード重視からソフト重視に転換しており、人的資本の育成に重点を置いている。また、資金の配分も国家ではなく地方政府重視であり、地域からのボトムアップの政策を歓迎している。さらに国境を越えた地域連携を積極的に促すと同時に政策決定自体をオープンなものとし、様々な利害関係者やNGOも意思決定過程に参加している。 このような構造基金の運営のあり方は、日本の地域開発や公共事業、そして政策決定のあり方をどう変えていけばよいのかについて、貴重な示唆を与えてくれている。
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