本研究課題は、1997年のアジア危機の背景にあった、東アジア諸国への大量の資本流入(資本収支黒字・経常収支赤字)の維持可能性の問題を、最近の実証分析の潮流である時系列分析を用いて、フォーマルに検証することを目的とする。 今年度は、まず初めに分析に用いるデータ(経常収支・貿易収支データ、実質GDP・生産指数データ、直接投資・ポートフォリオ投資・短期の資本流入データなど)の収集・整備を中心に行った。特に、危機が深刻でIMFの救済プログラムが必要であった、タイ、インドネシア、韓国についてのデータ整備を優先的に行った。 その上で、この分野の標準的な分析手法の一つであるHakkio and Rush(1991)のアプローチを使って、その3ヶ国について分析した。このアプローチは、輸出・輸入データに基づき、まず輸出、輸入(対外純債務に対する利払いを含む)それぞれの変数が非定常的な単位根過程であるかどうかを検定する。その結果いずれも単位根過程であることが示されたため、次に両者の間に共和分関係の存在があるかどうかをテストした。共和分の存在が示され、かつ共和分ベクトルの係数=1という仮説が支持されれば、この経済の対外債務の変動は異時点間の予算制約式と整合的となり、資本流入は維持可能と判断される。そこで「係数=1」という制約を課したもとで共和分テスト行ったところ、インドネシア、韓国については、共和分関係が強く支持されたが、タイについては支持されなかった。つまり、インドネシア、韓国について資本流入は維持可能であったが、タイについては維持不可能であった可能性を示唆している。これは、タイで発生した危機が、特にファンダメンタルズが悪くなかっなインドネシア、韓国に伝播していったという一般の理解と整合的な結果と解釈できるであろう。
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