本年度は、製薬企業の研究開発における意思決定プロセスを、組織的決定の分析フレームワークを用いて理論的に分析する作業を中心に行った。医薬品の製品開発は、自動車、家電などの産業と比較すると、個別製品の開発に際して初期段階の技術的不確実性がきわめて高いという特徴がある。例えば自動車産業では、新しいエンジン・システムを開発するような場合を除いた、基礎的研究を含まない製品の開発においては、目標とする性能(スペック)を実現するためにはどのような問題解決をすれば良いかが事前にかなりの程度予測できる。これは、自動車という製品に関して、製品の構造-機能の因果関係がかなりの程度わかっているからである。それに対して医薬品は、製品機能を発揮する環境が人体というきわめて複雑な環境であるために、製品の構造-機能の因果関係も複雑になっており、開発者にとって技術的不確実性の高い状況になっている。こうした特徴をもつ医薬品の製品開発プロセスを意思決定の分析モデルによって分析した結果、開発プロセスの川上段階(主として探索段階)ではゴミ箱モデル(garbage can model)が適合し、川下段階(主として臨床開発段階)では近代組織論的モデル、すなわち満足基準による探索型の意思決定モデルが符合することがわかった(本研究結果の詳細については桑嶋・高橋(2001)を参照)。
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