本年度は、近年、製薬産業で重要性が増しているグローバル研究開発に注目し、グローバルな研究開発を行う上での競争優位の源泉(組織能力)について、意思決定プロセスの側面から分析を試みた。具体的には、グローバル研究開発の成功事例としてMerck(米国)を取り上げ、特にコミュニケーションに焦点を当てながら、グローバル研究開発における研究拠点(R&Dユニット)間の役割分担の形成プロセスとそのマネジメントについて検討した。グローバル研究開発に関する研究では、R&Dユニットの立地やその機能の類型化については古くから研究が行われてきた。しかし、組織論やマネジメント的な視点からの分析は少なく、そうしたR&Dユニット間の役割分担が具体的にどのように形成されるのかにっいては十分な研究は行われていなかった。それに対して本研究では、事例分析より、グローバルな研究分担を効果的に行う上では、幅広い知識ベース(評価能力)とそれに基づいた高いコミュニケーション能力をもった統括者(ゲートキーパー)が重要や役割を果たすことが明らかにされた。こうしたの知見の一部については、マルチ・エージェント型のシミュレータを用いたモデル分析によって一般化が可能であることが確認された(本研究結果の詳細については桑嶋・高橋(2001)を参照)。
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