研究概要 |
日本におけるベンチャー・ビジネスの生成と成長のプロセスに焦点をあてた研究結果から導出される,ベンチャー企業の生成とその後の成長に重要な役割を果たすと考えられる戦略要因は,以下のとおりである。今日の取引環境には,エレクトロニック・コマースを中心とする新たな技術が登場し,マーケットに新たな混沌を生起させている。このカオスは,これまでの産業のパワー構造を根底から覆し,取引生態系のなかでは新たな秩序を求めた自己組織化が進展している。このプロセスで,環境変化として現れる事業機会は解釈され,アイデアは事業化される。こんにちの企業家に求められる能力は,矛盾したデータ,マーケットの雑然とした狂騒や混乱に埋もれた市場機会の発掘にある。ベンチャー企業が産出する製品やサービスは,誰もが予想しなかった市場のなかに,誰一人予想もしていなかった使われ方で顧客を見いだす無限の可能性を内包している。そして,こうした取引環境では,技術革新のスピードは速く,取引行為主体の成長のカギは自らを取りまく環境変化に迅速に対応した経営資源の展開にある。かれらが創出した生産物は,それが市場に導入されたときから競合他社の知るところとなる。かれらの追随に対応していち速く新たな価値物を創出できる能力を備えていない限り,それはその競争相手にビジネス機会を認識させるにとどまってしまう。こうした環境で,ベンチャー企業は必然的にイノヴァティブにならざるをえない。そのためには,かれらは恒久的に競争優位を生みだせる組織をデザインし,そこから顧客価値の創造を目的として,最適な経営資源の新結合を絶えず探求しなければならない。そして,かれらが創りだす生産物は,顧客価値を高めるものであり,競合他社との間の違いを実現するもの,組織能力を拡げるものでなければならない。
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