本年度は、実地調査は3月中旬に行う予定であったために、報告書を執筆している現段階では、(1)文献研究、(2)既入手済の史料に関する検討、(3)比較分析となる日本の事例に関する検討について報告することを中心とする。 (1)に関しては、まず機械工業における現場レヴェルでの技術移転を分析することに資するモデルの探索をおこなった。とくに経営学における「組織学習」論、ならびに認知心理学における「状況的認知」論に着目して技能形成・技術移転に関する分析の基礎固めとしての文献研究をおこなった。そのなかでもとくに「正統的周辺参加(LPP)モデル」に関するサーヴェイを中心におこなった。これについては『情報科学研究』誌に投稿し審査のうえ掲載が決定した。さらに、主たる研究課題である英国BSA社の歴史を検討するために、当社の所在したバーミンガム地域の産業政策に関する研究者であるバーミンガム大学のW.D.Garside教授の諸業績に関するサーヴェイをおこなった。つぎに(2)として、BSA社の1880年代の10年間に期間を絞り、工場レイアウトの転換に関する意思決定プロセスならびに資金調達、従業員によるストライキに関して、取締役会議事録ならびに財務諸表による分析を試み、現在発表にむけて論考を準備中である。さらに(3)としては、日本学術振興会特別研究員時代から継続している調査対象である英国との比較対象としての大田区の中小企業集積の分析を、英国の事例分析にさきがけて論考としてまとめた。とくに創業に着目し、1997年度以来、構築中のデータベースを利用して分析を試みた。その成果は『商学集志』誌に投稿し、審査の上掲載が確定している。なお3月に10日間、英国ウォーリック大学現代史料センターにおける資料調査、ならびに先述のGarside教授とのディスカッションをおこなう予定である。
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