研究概要 |
本研究の研究科題名は「多国籍企業における技術の逆移転の研究」です。従来,多国籍企業における技術開発は親会社が中心となって行ってきました。しかし近年では,海外子会社が中心となって技術を開発し,それらを親会社や他の海外子会社に「逆移転」する現象が現れています。そこで,平成12年度は欧米系多国籍企業のヒューレット・パッカード株式会社におけるTQC(Total Quality Control)の逆移転に関する事例分析を深めました。同社の事例分析は以前からも行っていたのですが,今年度は野中郁次郎・竹内弘高(梅本勝博訳)『知識創造企業』東洋経済新報社,1996年で提唱された知識創造パラダイムに基づいて,技術の逆移転が実は多国籍企業における世界的な知識創造活動の一部であることを明らかにしました。まず,多国籍企業の海外子会社が新たな技術情報・知識を生み出し,それらを親会社に「逆移転」します。つぎに,その親会社は海外子会社の開発した技術情報・知識を起爆剤として新たな技術情報・知識を生み出し,再び海外子会社に「順移転」します。このように技術情報・知識が1つの事業拠点内の相互作用だけでなく,事業拠点の間の相互作用によっても生み出されていく様子を明らかにすることができたのです。技術の逆移転は多国籍企業のこのような二重の「知識スパイラル」の過程で生じる現象であり.このような世界的な知識創造活動が実は多国籍企業の本質的な優位性ではないかという知見を得るに至りました。平成13年度はここで得られた知見に基づいて.さらに他の多国籍企業における技術の逆移転の事例分析にも取り組み,技術の逆移転の意味とその背後にある経営理論をいっそう浮き彫りにしていきたいと考えています。
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