本年度は、次年度に実施予定の実証研究の基礎となる部分の作業を行った。まず、文献の検討から、監査人の重要性判断の最終的結論とも言える財務諸表の適正性の判断において、財務諸表項目の重要性判断のみならず、内部統制の整備運用の適切性や、企業継続能力の評価など、監査人が行うべき多様な価値判断を含める必要性が示された。その理由は、既存の監査文献において監査人の立証活動を受けて監査報告書の内容が決定されるとされていたが、しかし最近の文献から監査報告を監査人の言語行為と捉え、監査報告書の文言が与える影響を議論の前提として、監査人の立証プロセスを再検討すべきという主張がなされていることに関連している。この観点に従えば、財務諸表の適正性という文言のもつ意味の多様性を前提に、重要性判断を含む監査人の立証活動の検討が必要とされる。 次いで、現行の監査プロセスにおける監査人の重要性判断については、実務経験者に対するインタビューを行い、その結果、既存の監査文献に見られる判断構造とは実務上は異なるという知見を得た。具体的には、監査計画時に用いられた重要性規準が、監査意見表明時の重要性規準には引き継がれないという点である。次年度は、文献研究および聞き取り調査の結果を取り入れた判断モデルを形成、実証する予定である。 第3に監査人の重要性判断が目に見える形でどのようになっているのかを検証するために、監査報告書データベースの作成を行った。今年度の作業は、平成12年3月期決算の東京証券取引所上場会社のうち、監査報告書に限定意見、かつまた特記事項が記載された会社の監査報告書の記載データをデータベース化したものを作成した。本データベースからの知見は、現段階では得られていないが、次年度の研究において利用する予定である。
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