本年度の課題は、比較制度分析および実証モデルの構築にあった。比較制度分析については、米国の会計基準、国際会計基準などの研究が順調に進んだ。さらにOhlsonモデルをはじめとした「Value relevaneモデル」を検討した。具体的には、Value-relevance型モデルを用いて、年金負債の評価基準としては、どのような基準が望ましいのかという問題にアプローチをした。多変量解析(J検定、包含検定など)を用いた実証リサーチを実施した。 本年度の実証研究の結果からは、次の2点が明らかになった。第1に、年金資産・年金負債・年金費用といった企業年金ファクターは、企業価値に関連している。第2に、"Incremental Information Conten"ならびに"Relative Information Content"の双方の検証結果から、年金負債の評価尺度としてはPBOが優位であると判断することができる。今回の会計制度改革において公表された日本の退職給付会計基準は、年金負債の評価尺度としてPBOを採用している。本研究の実証結果は、「結果的に」この点をサポートしている。 もちろん、SEC基準企業というきわめて限られたサンプルを用いている点は、本研究の限界であろう。その意味で暫定的な検証結果ではあるが、現時点では最善のサンプルと判断してこれを用いた。2001年3月期以降はサンプル数を拡大して、継続的に調査を実施していく予定である。それによって、本研究の一般性の有無を確認することができると考えられる。
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