本年度は大別して2つの観点から組織スラックの問題について取り組んでいる。まず1つめとして、組織スラックの形成に重要な影響を及ぼす重要な要因の1つである、組織構造の変革問題に焦点を当てている。欧米の先行研究から、組織の分権化に伴って資源配分のプロセスが変化するため、組織内で形成されるスラックの大きさやパターンが変化することが指摘されてきた。近年わが国の大企業を中心として、カンパニー制や分社化など組織の分権化が進んでいる。そこで本年度の研究では、このような近年の組織変革によるスラック形成への影響を明らかとすべく、わが国の大企業でカンパニー制を採用している企業約30社に対してインタビュー調査等を行い、組織変革に伴って意思決定・資源配分プロセス、業績評価システムなど組織スラックの形成に影響を及ぼすと思われる要因がどのように変化しているのかについて実態を明らかとした。注目すべき結果としては、組織の分権化に伴って組織の下位単位で資源配分の決定を有利に行うことができる場合が多いとされてきたが、近年のわが国の分権化にかぎっては逆に本社が資源配分権限を強化する企業が見られ、組織スラックが組織の下位単位に形成されにくいような構造になっていることが明らかとされた。 本年度の研究実績の2つめとしては、組織の予算編成において形成されるスラックの問題について、地方自治体における実態を明らかとした。対象として民間企業ではなく地方自治体を取り上げたのは、地方自治体の歳出項目の多くは、そのインプットに対するアウトプットを効率性の観点から測定するのは困難な場合が多いため、結果として組織内にスラックを容易に形成あるいは蓄積するのが容易であるとされているためである。 具体的には、約160の地方自治体に対してアンケート調査を行い、予算編成プロセスにおける現状を明らかにしたうえで、いかなる要因によってスラックが形成あるいは蓄積されるかについて検討を行った。
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