「ミラー対称性の数学的構造に関する研究」のため、本年度は「グロモフーウィッテン不変量の理論」の「連接層のモジュライ空間」による記述、を中心に研究を行なってきた。「グロモフーウィッテン不変量の理論」は、閉じたリーマン面から滑らかな多様体への正則写像を数える理論である。「グロモフーウィッテン不変量」の母関数を作り、その構造を解明することが目的である。 本研究では、一般の3次元カラビ・ヤウ多様体に対し上記のことについて考察してきた。本年度は、弦双対性における「Dブレーン」の観点から連接層のモジュライ空間の解析し、次のような成果を得た。 1「1粒子BPS状態の空間」の数学的定式化を行った。 2「安定な連接層のモジュライ空間」の交叉コホモロジー環上に、可換な2つのレフシェッツ作用があることの証明。その結果「BPS不変量」が数学的に定義可能であることを示した。 3物理学者ゴパクマー-ヴァファによる予想に対し、いくつかの例で数学的に厳密な証明を与えた。これらの結果から、「正則写像の数」と連接層のモジュライ理論という全く異なる数学が密接に関係していることがわかる。 また「BPS状態の空間」の解析の際に、「ポアンカレ多項式の繰り込み」の現象を発見した。このことを数学的に理解することはまだできていないが、「モジュラー不変性」に関して非常に重要な役割を果たすと考えており、現在研究中である。 これらの背景に存在する「BPS状態」および「超弦理論の双対性」の「数学的構造」の解明を進めているところである。
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