本年度は、以下の研究実績が得られた。 (1)単一の入出力を持つ多次元システムに対する安定化補償器の体系的な構成方法を、実代数幾何学の方法によって確立した。この方法の要点は、まず、安定化器は二つの多項式で表現する。システムの安定化のため、この二つの多項式はある代数方程式と不等式からなる1階述語論理式を満たさなければならない。この論理式には、求める多項式の係数以外の変数は束縛変数であり、それらを消去すれば、求める多項式の係数が満たすべき代数的条件が得られる。実代数幾何学の方法によって、論理式に現れる代数方程式及び不等式が定義する半代数的集合を構造的に分割して(Cylindrical Algebraic Decomposition)、この構造を調べれば、束縛変数の消去(Quantifier Elimination)ができる。また、同様の手法を用いて、多項式(安定化補償器)の係数が満たすべき代数的条件から、安定化補償器を構成することができる。 (2)現在、大半の信号処理システムは、ディジタル信号処理プロセッサ(DSP)によって実装されている。DSPは、電子計算機と同様、有限桁数(ビット数)の数値しか扱えないので、理論上では安定なシステムでも、実装した場合は有限ビット数の影響で不安定な振る舞いをする場合がある。このような問題への対応としては、システムに一定の安定性の余裕(Stability Margin)を持たせる必要がある。本研究は、安定性余裕及び安定化によって得られる最大な余裕の計算方法を考案した。 (3)時間遅延を持つシステムの制御は、現実のシステム制御では重要な課題であると同時に、その数学構造の複雑さから、数学的にも興味深い課題を含んでいる。本研究では、遅延システムを安定で遅延のない補償器によって安定化できるかどうかの強可安定化性の問題を、多次元システム安定化の結果を用いて、ある十分条件を与えた。この問題についての初めての結果である。 (4)関連する計算を計算機上で実現するための研究は現在進行中である。
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