研究概要 |
3次元領域でのストークス問題の安定化有限要素スキームを用いたソルバーの構築と並列化に関し次の結果を得た. (1)計算対象の領域がある対称性を持つ場合,互いに直交変換で移りうる合同な部分領域に分割することが可能である.さらに,この直交変換を表す行列の成分が-1と0および1からのみ成る場合,効果的なアルゴリズムを得る.剛性行列は領域全体で構成し,記憶する必要は無く,ベクトル値関数の座標変換による符号の修正を行うのみで,1つの参照部分領域での剛性行列を複写することで構成できる.このため,記憶容量を大幅に削減できることが分かった. (2)有限要素法では本質的境界条件や剛体回転などの線形拘束は関数空間の制約として取り扱う.制約付空間での弱形式の離散近似によって得られる有限要素方程式は,全節点自由度の空間からの制限を実現する正射影を用いて統一的に表現でき,正射影付きクリロフ部分空間法によりその解を求めることができることが分かった.これにより,プログラムの簡略化と高速化が可能になった. (3)合同な部分領域への領域分割を用い,正射影付の前処理付共役勾配法によるアルゴリズムを並列計算機へ実装した.合同な部分領域への領域分割による記憶容量削減効果を活用するため,共有メモリー型の並列計算機を使用した.OpenMPライブラリーを用いて開発した並列コードにより,約130万自由度のストークス問題の有限要素方程式に対し,九州大学情報基盤センター設備のFujitsu GP7000Fを用い,24CPUを使用し,速度向上率19.8倍,並列効率82.5%を得た. (4)弾性体問題の離散化によって得られる正定値な行列の部分構造反復法に対して効果的な前処理を行うBalancing DDMが提案されている.有限要素解が剛体回転の自由度を残すストークス問題の離散化から得られる零および負の固有値を含む行列においても,このアルゴリズムが,良好な反復収束特性を示すことを,数値実験により確認した.
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