研究概要 |
ホロノミー写像による擬フックス群空間の逆像の各成分と,面上の単純閉曲線の族との対応をグラフティングという操作で与えたGoldmanの定理を,ホロノミー表現の像が全退化群になるようなものに対しても拡張し,その応用としてリーマン面上の射影構造に関する新しい知見を得ることを目標にしたが,今年度の研究では,そのためのプログラムが公表でき,7段階のステップを設定した.そのうち最初の2つについては論文にまとめ,研究集会等で発表し,またRogers,Tukiaなどの海外の専門家に意見をもらうこともできた. まず,一般にリーマン面上の単連結領域の形状を調べ,それが病的に複雑でありうる例を構成した.それにもかかわらず,リーマン面の位相不変量に依存した定数で,ある種の境界成分の個数が評価できることを示した.これは,全退化群の不連続領域の展開写像による逆像が単連結であることはありえないことを示すためには,それがリーマン面上の射影構造に由来するという性質を用いなければ不可能であるを言っている. 次に全退化群の極限集合の性質として,分解可能性を証明した.一般に,連続体が分解可能であるとは,その真の部分連続体2つの和として書けることであり,これは局所連結であるための必要条件でもある.この性質により,極限集合の展開写像による逆像の形がある程度穏やかであることが保証できた.また,この結果はそれ自身応用がいくつかあり,リーマン写像が極限集合のMyrberg点には連続拡張することも,Tukiaの定理から従うことがわかった. 一般のクライン群の球面への作用のエルゴード理論的性質のうち,保存性について,球面測度に関して得られていた結果を一般化し,発散的クライン群のPatterson-Sullivanに関して,非自明な正規部分群は保存性をもつことを証明した.
|