研究概要 |
今年度は交付申請書に記載した研究実施計画のうち,主に種数が2以上の閉リーマン面上で(射影接続に対応する)2階のフックス型方程式のモノドロミー保存変形を記述するための準備的な考察を始めた.これまでの研究の中で代表者は,90年代半ばにマニンによって提示されたパンルヴェ第6方程式の別表示の幾何学的な意味を,楕円曲線をリーマン球面の4点の上で分岐した2重被覆とみるという古典的な視点にもとづいて,線形常微分方程式のモノドロミー保存変形の立場から明らかにすることに成功していたが,これと同様の考察をパンルヴェ第6方程式のある種の多変数化であるガルニエ系に対して行うことが今年度の研究の主なテーマであった.具体的には手始めとして,種数2の閉リーマン面がリーマン球面の6点の上で2重に分岐しているという状況を考えることによって,3変数ガルニエ系(G)に対してマニンの表示にあたるものが導出できないかを探ってみた.種数2の閉リーマン面の複素構造は,一方でリーマン球面の6個の分岐点のうちの3個の正規化を通じて,残り3個の位置によって記述されるが,他方でアーベル・ヤコビ写像によるヤコビ多様体の中への埋め込みを通じて,周期行列の3個の成分によっても記述することができる.これらの変数の対応はテータ関数によって具体的に書き下すことができるから,(G)の3個の独立変数については適当な変換がみつかったといってよいであろう.問題は(G)の従属変数に対するしかるべき変換は何かということである.種数2の閉リーマン面はそのヤコビ多様体の中では平行移動を除いてテータ因子として実現されるから,このテータ因子に対して何か自然な局所座標を導入すればよいのではないかとも思われるが,現在のところまだ不明な点もあり,残念ながら最終的な結果には至っていない.来年度は,具体的な計算を含めて引き続きこのテーマについての研究を予定している.
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