力学系の規格化された再帰時間の分布に関して、先に私は、(ある集合に関する)規格化された第1再帰時間の(その集合の測度が0に近づくときの)極限分布が指数分布になるための判定条件、および、規格化された第k再帰時間の極限分布としてポアソン分布が現われる(これをポアソン法則と呼ぶ)ための条件を、抽象的な力学系において明らかにしたが、今年度の研究では、第1再帰時間についてのみ考えれば、より弱い条件(φ混合性と呼ばれるもの)の下で、同様の結果が得られることがわかった。この結果は、現在、論文として投稿中である。また、エントリピーが0の場合ではどうなるかというのも興味深い問題で、計算機による数値実験から特別な例では同様の結果が示唆されたが、この数学的証明を終えているわけは今後の課題としたい。「カオス的遍歴」を示すようなモデルの構成のために、非一様1次元双曲型力学系を連結したモデルの数値実験も行っているが、その数学的解析は次年度の課題である。ところで、非一様1次元双曲型力学系はその非一様性を示す指数によっては、不変測度が無限測度になってしまうので、そのような場合にポアソン法則がどうなるのかということは、重要な問題である。先の結果は、すべて有限な不変測度を持つ混合的な力学系に関する結果であり、無限測度となる場合に関しては、まだほとんどわかっていない。そこで、国内および海外出張などを通じて、無限測度を持つエルゴード的力学系に関する情報収集を行い、この場合でのポアソン法則の問題についての研究を始めたところである。現時点でわかっていることは、最も単純なモデルにおいて、しかもある特別な集合族に関して、規格化された第1再帰時間の極限分布が指数分布と安定分布の積の形で現われる、ということまでである。これをより一般的な結果に拡張し、まとめることを次年度の研究目標の一つとしたい。
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