力学系の(ある近傍への)再帰時間の(不変測度についての)分布が、近傍の大きさを縮めていったとき漸近的にどのような分布になるかという研究を続けてきた。以前、典型的なカオス的力学系であるアノーゾフ系や公理A系ではポアソン分布が現れることを示したが、その後、非一様な双曲型力学系の典型例であるindifferentな不動点を持つ1次元力学系について同様な問題について研究を続け、有限な不変測度を持つ場合(つまり傾き1の直線との接触のオーダーが2未満のとき)は、一様な双曲型の場合と同様にポアソン分布が現れることがわかった。このような「再帰時間の極限分布がポアソン分布になる」という性質(これをポアソン法則と呼ぶ)は、力学系がカオス的性質を持つことのひとつの特徴付けといえる。さて、次に問題になるのは、非一様な双曲型力学系で有限不変測度が存在せず、σ有限測度になってしまう場合(つまり接触のオーダーが2以上のとき)である。この場合、特殊な例の不動点の近傍についての(ルベーグ測度についての)結果ではあるが、接触のオーダーがちょうど2の時は依然ポアソン法則が成立するが、2を越えると、もはやポアソン法則は成り立たない(1回目の再帰時間の極限分布が指数分布と安定分布の結合したものになる)こと、および、その結合の仕方は接触のオーダーによって決まることがわかった。しかしこれはまだ限定的な結果であり、これをより一般的にすることが今後の課題である。なお、以上の結果をまとめた論文「On the limit distribution of the hitting times of non-uniformly hyperbolic systems」をCommun.Math.Phys.に投稿中である。
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