当該研究では物質が液体及び気体等の異なる2つの相を安定維持するような状態の重要な数理モデル化のひとつであるファンデルワールスのフェイズフィールドモデルの解析を主目的としている。ここでは物質の状態を表すために、表面張力効果を持つ特異摂動項をもつような非凸エネルギー汎関数を考える。数学的問題としては相分離面の厚みを表すパラメターによる停留点の漸近挙動がまず第一の問題として考えられた。予備的な結果としてJ.Hutchinsonとの共同研究(研究発表参照)により、相分離面はパラメターが十分小さい時には定平均曲率曲面にいわゆるハウスドルフ距離の意味で近いことが示された。これは以前知られていた結果がエネルギー最小解のみの知見であることとは異なり、一般停留点に対しての結果であることが特記される。その帰結として当該研究の結果は時間依存するようなCahn-Hilliard方程式などの非平衡問題に対しても応用範囲があることを意味する。その一環として今年度得られたのはいわゆる化学ポテンシャル項が定数ではないような場合の特異摂動についての結果である。この場合、極限相分離面となるのは各点での平均曲率が化学ポテンシャルによって決定されるものとなることが厳密に示された。これにより2次元空間においては、Cahn-Hilliard方程式の特異摂動極限の相分離面が、ある意味で扱いやすい一次元曲線であることが示された。現在一般次元における同様の結果を示すことを1つの目標としている。またパラメターが十分小さい時の相分離面の詳細な正則性の理論構成についても現在研究進行中であり、ある意味で相分離面は少なくとも一回可微分であることが示された。
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